遺留分侵害額請求を成功させる「3つのステップ」と弁護士による交渉戦略

親が亡くなり、遺言書を確認したところ、自分にはほとんど、あるいはまったく遺産が残されていないことを知って、ショックを受ける方もいるでしょう。

しかし、そこで諦めてしまうのはまだ早いかもしれません。

法律には「遺留分」という制度があり、たとえ遺言書があっても、一定の相続人には最低限の財産を受け取る権利が保障されています。

ただし、遺留分は、黙っていれば誰かが自動的に計算して振り込んでくれるものではありません。自分の権利を主張し、適切な手続きを踏んで初めて受け取ることができるのです。

この記事では、遺留分侵害額請求を進めるための3つのステップと、弁護士に依頼するメリットについて、分かりやすく解説します。

遺留分は「勝手に振り込まれるもの」ではないという事実

遺留分制度とは、亡くなった方(被相続人)の兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子、親など)に対して、法律上保障されている最低限の遺産の取り分のことです。これは、残された家族の生活保障などを目的としています。

しかし、遺言によって自分の遺留分が侵害されている(つまり、最低限の取り分よりも少ない財産しか受け取れない)と分かっても、何もしなければ遺留分は取り戻すことはできません。

そこで、遺産を多く受け取った人(受遺者や受贈者)に対して、「私の遺留分が侵害されているので、その分のお金を支払ってください」と明確に意思表示をする必要があります。これを「遺留分侵害額請求」といい、この意思表示を行って初めて、具体的な金銭の支払いを求めることができるのです。

ステップ1:遺留分を正確に算定するための「徹底した財産調査」

遺留分侵害額請求を行う最初のステップは、「自分がいくら請求できるのか」を正確に計算することです。その計算は、以下の式で行われます。

遺留分侵害額の計算

①遺留分を算定するための財産の価格を確定(=相続開始時の財産価格+被相続人に対する10年以内の生前贈与+それ以外の者への1年以内の生前贈与)した財産の価格-相続財務の全額)

②遺留分権利者が受けた特別な利益(特別受益)

③遺留分権利者が相続で取得する財産(遺贈)

④遺留分権利者が負担する債務

⇒上記①-(②+③+④)

この計算式は複雑に見えますが、要するに「本来もらえるはずだった最低限の金額(遺留分額)から、すでにもらった分などを差し引いた不足額」を請求するということです。

そして、この計算を正確に行うためには、その前提となる被相続人の財産の全体像を正確に把握する「財産調査」が不可欠です。

調査すべき財産には、以下のようなものがあります。

積極財産 預貯金、不動産、株式などの有価証券、自動車、生命保険など
生前贈与 相続人に対しては原則10年以内、それ以外の人へは原則1年以内に行われた贈与(※但し遺留分「侵害額」計算の場合の特別受益については期限なし)
消極財産(債務) 借金や未払金など

これらの財産を一つ一つリストアップし、それぞれの価値を評価していく作業が必要です。特に不動産や非公開株式などは評価が難しく、専門的な知識が求められます。この財産調査が不十分だと、本来請求できるはずの金額よりも低い額しか請求できない可能性があるため、非常に重要なステップとなります。

ステップ2:期限は1年。内容証明郵便による「遺留分侵害額の意思表示」

遺留分侵害額請求権には、「時効」というタイムリミットが存在します。具体的には、以下のいずれかの期間が経過すると、権利が消滅してしまいます。

  • 相続が始まったこと、および自分の遺留分が侵害されていることを知った時から1年
  • 相続が開始した時から10年

特に「知った時から1年」という期間は非常に短いため、迅速な行動が求められます。この期間内に、相手方に対して遺留分を請求する「意思表示」を行う必要があります。

意思表示の方法に法律上の決まりはなく、口頭でも有効です。しかし、後になって「言った、言わない」という水掛け論になるのを防ぐため、配達証明付き内容証明郵便を利用するのが最も確実で望ましい方法です。

これにより、「誰が、いつ、どのような内容の意思表示を、誰に対して行ったか」を郵便局が公的に証明してくれます。

内容証明郵便に記載する文面は、「被相続人〇〇の遺言により私の遺留分が侵害されたので、遺留分侵害額の請求をします」といった趣旨が明確に伝わるものであれば十分です。この段階では、必ずしも具体的な侵害額を細かく記載する必要はありません(但し、単なる遺産分割協議の働きかけだけでは、遺留分侵害額の請求の意思表示としては不十分ですので注意してください)。

まずは時効を止めるために、権利を行使する意思を明確に相手に伝えることが最優先です。

ステップ3:感情論を排除した「証拠に基づく価格交渉」

内容証明郵便を送付して意思表示を済ませたら、次はいよいよ具体的な金額の支払いに向けた相手方との交渉が始まります。この交渉を成功させる鍵は、感情論を排し、客観的な証拠に基づいて話し合いを進めることです。

ステップ1で徹底的に調査した財産目録や、不動産の査定書といった資料を提示しながら、算出した遺留分侵害額の根拠を具体的に示して支払いを求めます。

しかし、相続問題では家族間の感情的な対立が激しくなりがちで、当事者同士での冷静な話し合いが難しいケースも少なくありません。また、遺留分侵害額の請求の意思表示をした後でも、その後5年間何もしないと消滅時効にかかってしまいますので、話し合いが長期化する見込みの場合には、家庭裁判所の「遺留分侵害額請求調停」を利用することが有用です。調停では、裁判官や調停委員といった中立的な第三者が間に入り、双方から事情を聴きながら、法的な観点に基づいた解決案を提示するなどして、話し合いがまとまるようサポートしてくれます。

交渉や調停によって相手方との間で支払金額や支払方法について合意が成立した場合は、必ずその内容を「合意書」として書面に残しましょう。合意書には、支払われる具体的な金額、支払期限、遅れた場合のペナルティ(遅延損害金)などを明確に記載することで、後のトラブルを防ぐことができます。

なぜ遺留分侵害額請求を弁護士に依頼すると回収額が変わるのか

遺留分侵害額請求は自分で行うことも不可能ではありません。しかし、弁護士に依頼することで、最終的に手にする金額(回収額)が大きく変わってくる可能性があります。その理由は主に以下の点にあります。

徹底した財産調査による請求額の最大化

弁護士は、預貯金の取引履歴の開示請求や、弁護士会を通じて関係各所に情報を照会する「弁護士会照会」を行うことができます。これにより、個人では調査が困難な被相続人の財産や生前贈与を突き止めることが可能です。隠されていた財産が見つかれば、遺留分を計算する際の基礎となる財産額が増加し、結果として請求できる金額も増えることになります。

法的に正確な評価と計算

遺留分侵害額の計算は、不動産の評価、特別受益にあたるかどうかの判断など、法的な専門知識がなければ難しい点が多々あります。弁護士は、これらの複雑な要素を法的に正しく評価・算定し、依頼者の権利を最大限反映した、法的に正当な請求額を算出します。

感情に左右されない戦略的な交渉

弁護士は、依頼者の代理人として冷静に、かつ法的な根拠に基づいて相手方と交渉します。感情的な対立を避けつつ、証拠を元に毅然と主張することで、相手方に言いくるめられたり、不当に低い金額で合意してしまったりするリスクを防ぎます。交渉が決裂し、調停や訴訟に移行した場合でも、複雑な手続きをすべて任せることができます。

関連する法的問題への対応

場合によっては、「遺言書自体が無効ではないか」と争う余地があるケースもあります。弁護士に依頼すれば、遺言無効確認訴訟と遺留分侵害額請求を並行して検討するなど、事案に応じた最適な戦略を立ててくれます。遺留分侵害額請求権の時効消滅を防ぎながら、より有利な解決を目指すための助言を得られることは大きなメリットです。

まとめ:スピード感が成否を分ける遺留分トラブル

この記事では、遺留分侵害額請求を成功させるための3つのステップと、弁護士の役割について解説しました。重要ポイントは、以下の3点です。

  • 遺留分は自動的にもらえる権利ではなく、自ら請求する必要がある
  • 請求には「知った時から1年」という短い時効があり、スピードが命
  • 成功の鍵は「①正確な財産調査」「②確実な意思表示」「③証拠に基づく交渉」

相続トラブルは、時間が経つほど財産の把握が難しくなり、当事者間の感情的な対立も深まって解決が困難になりがちです。

「遺言の内容に納得がいかない」「自分の取り分が少なすぎるかもしれない」と感じたら、まずは時効で権利を失ってしまう前に、できるだけ相続に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

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この記事を書いた人

弁護士 大澤美穂子(おおさわ みほこ)
クラース東京法律事務所 代表弁護士
第二東京弁護士会所属(登録番号:33043)
2005年10月弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、クラース東京法律事務所代表弁護士。
企業法務、一般民事、離婚などの家事事件、高齢者問題(成年後見、遺言、相続)など広く取り扱い、クライアントのニーズに合った最適な解決方法を目指している。
主な経歴・所属

静岡県静岡市清水区(旧清水市)出身
静岡県立清水東高校、中央大学法学部卒業
監査役(及び監査等委員)現任

著書

事例に学ぶ成年後見入門(第 2 版、民事法研究会)
雑誌企業実務(2022.5、2025.5 記事、日本実業出版社)
事例に学ぶ離婚事件入門(共著、民事法研究会)他

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