カスハラ対策
2.カスハラ対策で注意すべき点
2-1 正当な要求との区別が難しい
2022年2月に厚労省からカスタマーハラスメント対策企業マニュアルが公表され、これを踏襲する形で東京都等の自治体でカスハラ防止条例が制定され、2025年4月1日から施行されました。
また、カスハラ防止条例の内容を具体化したガイドライン(カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針)も2024年12月19日に制定されています。
カスハラ防止条例等は、現時点では罰則を伴うものではありませんが、企業としてカスハラ防止条例への対応は必須と言えるでしょう。
そもそも、「カスタマーハラスメント」とは何でしょうか。
実は法律上の明確な規定はありません(2025年4月段階)が、厚労省の上記マニュアルや条例等で規定があります。
例えば、厚労省マニュアルですと、カスハラとは、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されています。
このように、カスハラは、顧客等からのクレーム等のうち、
- 要求の内容が妥当性を欠くもの
- 要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なもの
に該当するものがカスハラとなります。
なお、カスハラの加害者である「顧客等」には、実際の顧客だけでなく、今後サービス等を利用する可能性のある潜在的な顧客すべてを含みますので、かなり広く認められることになります。
カスハラ対策で難しいは、そもそも正当な要求の範囲なのか、それともカスハラなのかという区別です。正当な要求をカスハラ扱いすることは許されませんが、現場で個々に判断することは現実的ではありません。
したがって、カスハラ対策として重要なのは、各社があらかじめカスハラに該当する判断基準を明確にした上で、企業の対応方針・ルールを統一し現場と共有しておくことです。
誰から、誰に対し、どのような行為が何回あり、是正要求をしても応じなかったかなど、明確な基準を設けておき、該当する場合にはカスハラとして認定し、従業員個人ではなく企業組織としての対応が必要と考えられます。
2-2 従業員の不満が雇用主へ向きやすい
カスハラもハラスメントの一種に分類されますが、例えばパワハラとは何が違うのでしょうか。
パワハラは、職場の上司等からのハラスメントですので、発覚した場合、会社側としては就業規則に基づく懲戒処分等によるコントロールを効かせることができます。
他方、カスハラの場合は、取引先や顧客など社外からのハラスメントですので、会社側としても懲戒処分等でのコントロールができません。取引先とのパワーバランス上、時として取引先に強く言えない結果、被害者である従業員が会社側に不満を向けやすい性質があると言えます。
2-3 従業員を守る姿勢を示すことが大事
企業にとって、従業員は大事な財産です。従業員を守る姿勢を見せなければ、従業員の心は離れてしまいます。
まずはカスハラ対策指針を打ち出し、企業として従業員を守る姿勢を強く打ち出しましょう。その上で、実際のフローは現場の意見を聞きながら策定し、カスハラが生じた際は現場を孤立させず組織として対応することが重要です。
2-4 弁護士は企業と従業員を守ります
弁護士は、法律の専門家である前に、「事実認定」の専門家です。どこまでが正当な要求で、どこからが違法なカスハラかを事実認定することに長けています。
また、弁護士がカスハラ支援をすることで、企業は「お客様」でもある加害者との緊張関係から解放されます。第三者である弁護士だからこそ、顧客と対等公平な関係性に切り替えることができます。
あまりにも厳しいカスハラに対しては、各刑事罰(暴行、傷害、脅迫、恐喝、教養、名誉棄損、信用棄損、業務妨害、不退去罪等)の検討や民事訴訟による解決を図ります。
3.実際の活用例(一部)
3-1 製造物流小売業(カスハラ対応)
購入した家具に不具合があるとしてお客様からのクレームに苦慮しているとの相談。
事実確認をしたところ、確かに不具合があった可能性は否めないものの、金品要求等相当性を逸脱すると判断。現場に対する対応支援を行い、弁護士の意見も確認したことを顧客に伝え、最終的には顧客からの不当要求を退けました。
※担当者は顧客からのクレームにどこまで対応すべきかに悩んでおり、正当な主張か不当なカスハラなのかの判断がつきかねていました。そこで弁護士が客観的な事実を確認し、当該事実からすると、不具合自体はあったことから、その点の対応は必要であるものの、既に対応は完了しており、それ以上のクレームは手段が不相当でありカスハラとして対応する必要があると判断し、敢えて弁護士にも判断を仰いだことを顧客に伝えてもらうことで、顧客からの不当要求を抑えるようにしました。
3-2 運送業(カスハラ対応)
配送先個人からの暴言や暴行等にどう対応すべきかのご相談。
カスハラ方針の策定や従業員への周知等を提案し、企業としてあるべきカスハラ対応について理解を深めていただきました。
※カスハラ対策に関する情報を提供し、経営者側にカスハラ対策の必要性を理解していただきました。日頃から気軽に弁護士にアクセスできる環境をご提供していることから、雑談やちょっとした相談として法律的なアドバイスを差し上げられるのが強みの一つです。