労務管理
2.中小企業における労務管理の重要性
2-1 中小企業は従業員一人のウェイトが高い
中小企業では従業員一人一人の役割が大きく、特定の社員が退職したりモチベーションが低下したりすると、業務に重大な支障が出る可能性があります。労務管理が適切でないと、離職率の上昇や生産性の低下を招きます。
人手不足の状況は今後も続くと考えられますが、労働条件を整備し働きやすい環境を整えることで、良い人材を取りやすくなります。労務トラブルが生ずると、社内の雰囲気も悪化し人材の質の低下など悪循環となる可能性がありますので、注意が必要です。
2-2 トラブルが生じた場合のコストが高い
典型的な例としては、従業員を解雇したところ、当該従業員から解雇は無効であることの主張に加えて、未払賃金(割増手当)を請求されることがあります。この場合、仮に労働審判や労働訴訟まで発展すると、企業側は非常に苦しい立場に追い込まれることになります。
すなわち、多くの場合は解雇要件を満たさないため、解雇は無効であると判断される結果、未だ従業員は社員であることが認められ、かつ、割増賃金請求が過去3年分認められることにより数百万円以上もの支払いを余儀なくされることになります。割増賃金の算定根拠となる基礎賃金には、基本給以外にも一定の手当も入りますので、予想以上の額になることが少なくありません。
このように、一旦労務問題が生ずると多大な金銭的損害を被る上、他の従業員への影響も大きいため、中小企業にとっては経営を揺るがす大きな負担となりえます。
これらの状況を事前に回避するためには、日頃から予防的な労務管理をする必要がありますし、その方が圧倒的にコスト効率が良いでしょう。
2-3 法令違反による経営への影響が大きい
労働基準法や労働安全衛生法等の違反(未払い残業問題、解雇トラブル、労働環境問題等)は、労働基準監督署の調査や是正勧告の対象となります。悪質な場合は、刑事罰に発展することもあります。中小企業にとってはその影響が致命的になりかねません。
3.実際の活用例(一部)
3-1 システム開発会社(労務問題)
有期雇用契約の期間満了による退職をした元社員から、労働契約が終了していない(解雇無効)として労働審判の申立がされたとのご相談。
当初会社側としては、全く謂れのない不当訴訟だとの認識でしたが、雇用契約書の記載内容等によると、ある一面では法的に解雇と解される可能性があること、そのため、仮に解雇無効が認められると、全く働いていない過去3年分の賃金(バックペイ)を支払う必要がある可能性があることが判明しました。
労働審判では、会社に有利な事情を最大限主張するとともに、敗訴リスクを考えて会社としても受け入れることが可能な範囲内の和解で解決しました。その後、問題となった雇用契約書の書式を是正し今後同様の事案が起きないように対処しました。
※本件の詳細を記載することは難しいのですが、本件は他社でも誤解が生じやすい点であり、一般的な認識と裁判所の認定が異なる可能性が高い論点でした。今後も顧問先企業様には注意喚起を図っていきたいと考えております。
3-2 警備会社(労務問題)
中途採用社員が当初予定した成果を上げられず、勤務態度も不良であったことから、解雇したいとのご相談。
検討したところ、本事案では解雇要件を満たさないと判断される可能性が高いこと、とはいえ他社員への影響を考えるとこれ以上の就業は認めがたいことから、解雇ではなく退職勧奨による退職を目指すことにし、粘り強い話し合いにより一定条件による自主退職となりました。
3-3 小売業(労務問題)
ある社員の勤務態度不良により、解雇したいとのご相談。
就業規則上、懲戒事由となる事項が散見されるものの、会社側からは特段懲戒処分はしておらず、他方、解雇事由までは認めがたいため、まずは懲戒規定に基づく譴責・戒告などイエローカードを出し実績を積むことに。その上でさらに重い処分を出す中で、退職勧奨を行い、従業員も納得の上で自主退職となりました。